研究概要

 アートセラピー(Arts therapy)という言葉を時々耳にします。日本では「芸術療法」と訳されて、1960年代から精神医学の分野で発達してきました。精神(心理)療法の一つの技法として、絵画や音楽などのアートの表現媒体を用いて内部に抱える問題や病理にアプローチします。患者やクライエント表現から、日常会話における言葉では表現されえないものが見えてきて、精神障害や心身症の治療や問題行動の解決につながることがあります。
 アートセラピー(芸術療法)は、精神障害・精神疾患を抱えた人だけのものではありません。近年は日常の身近なところで、より手軽な「アートセラピー」、あるいはそれに類する活動が実践されており、比較的健康な人を対象に、子育て・教育支援や認知症予防の手段、心身の健康の維持・増進、QOLの向上、自己発見の手段として用いられています。アートセラピーは幅広い年代の人に対して様々な目的で用いることができ、また地域性や現場の環境にも柔軟に適応できるものです。
 甲南大学人間科学研究所における先行調査研究(2008−12)によって、アートセラピーの多様なあり方や社会的意義が明らかにされました。地域社会で活動するアートセラピストの多くは、心理療法の専門性は低いものの、現場に即した有効な活動を実践しています。今後さらに、こうした地域に根差すアートセラピストの持続的な活動の展開が期待されます。
 私達の研究チームは、このような地域社会でアートセラピー活動を行う人を「市井のアートセラピスト」と名付け、科学研究費助成を得て、「アートセラピーの全国実態調査研究(2012-2014)」[挑戦的萌芽研究:課題番号24653153]を行いました。そして、調査から見えてきた実態と特徴、そしてその発展のために取り組むべき課題をもとに、このような日常に根ざした「支援」としてのアートセラピー活動活動を「エンパワメント型アートセラピー」と名づけ、同じ助成事業として「エンパワメント型アートセラピーの構成要件の解明と評価基準の開発(2015-2017)」[同研究:課題番号15K13105]に取り組み、現在も継続して進めています。

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研究スタッフ

兼子 一(神戸医療福祉大学)
 石原みどり(甲南大学人間科学研究所)
 小村みち((特活)ライフスキル研究所)