7カテゴリー23項目の構成要件
 ATASでは、精神科学、心理学の専門家および市井のアートセラピストらと共同しながら、エンパワメント型アートセラピー(EAT)の「構成要件」の策定に取り組みました。現段階で考案している構成要件の内容は次の通りです。

1.アートセラピーの本質・理念の追究をはかっているか?
①自分のめざすアートセラピーの理想・理念がある。  
②アート(表現すること)の本質について追究している。
③自己の活動(ここでいえばエンパワメント) の理念をもっている。
2.アートセラピーの知識・技術を獲得できているか?
④アートが有するセラピー効果、セラピー機能について理解し、説明できる。
⑤目的・ねらいに応じたアートセラピーおよびアートの知識・技術を有している。
⑥アートセラピー全般について知っている。
3.アートセラピーの実践の基本を踏まえているか?
⑦自己の活動の目的・ねらい、対象(相手)が明確である。
⑧目的・ねらい、相手の状況、展開の仕方に応じてワークやセッションを組み立て、進めることができる。
⑨相手との距離を考え、適切な関係が取られている。
4.アートセラピー効果の向上化・深化をはかっているか?
⑩対象者本人が主体となってアートセラピー効果を得ることができ、その効果や意味を理解し、さらに生き方に反映させるために必要な能力・意識・考え方が、本人に育成されるように図っている。
⑪相手を多角的に理解するよう図っている。
⑫相手が置かれている社会的環境、相手に関係する制度・組織・サービスなどについての情報を
得るようにしている。
5.自己理解・自己研鑽を行っているか?
⑬活動に必要な専門的あるいは関連する知識・技術の向上をはかっている。
⑭自己評価を行っている。
⑮自分の本質や性向を理解・把握し、自分が抱える心理的な問題については一定の整理や
解決がついている。
6.安全対策・専門的ネットワークを構築しているか?
⑯精神病理学および精神(心理)療法に関する基礎知識がある。
⑰(心理)カウンセリングに関する基礎知識がある。
⑱(心理)カウンセリングを行っている場合、基礎的技術がある。
⑲スーパーヴァイザーなど指導者あるいは相談できる人がいる。
⑳相手の状態や状況に応じて専門家や専門機関につなぐことができる。
7.活動の継続可能性を追求しているか? 
㉑継続的・計画的に活動を進めている=気が向いたときに活動するのではない。
㉒収支計画を立てている。
㉓活動にかかる正当な経費は、持ち出しではなく対価として受け取っている、またはそれをめざしている。
自己評価という方法

 アートのもつセラピー機能が有効に発動するためには、安心して表現できること、表現を強要されないこと、たとえ心の痛みや傷、否定的な感情を表現しても暴走しない枠組やフォローなどが求められます。相手の状態や状況によっては各専門家に接続できなくてはなりません。その点で精神病理や心理学、心理療法についての基本的な知識が求められ、かつ自己の能力・立場を客観的に認識する能力、自分がどういった人々を対象とするのか、あるいはできるのか見極める判断力が必要となります。
 エンパワメント型アートセラピー(EAT)は、病理学的アートセラピー(PAT)のように、一定の期間、一定の範囲、一定の評価基準(患者の病態の改善度)の枠にあるのではなく、相手の状態も方向性も千差万別で、何をもって「良好な変化」であるか一律に決められず、また選択肢も複数あります。現在の関わりが何年も経てから変化をもたらすこともあります。ですので、ここでの評価とはEATのアートセラピストを「正しく裁く」ものではないのです。つまり、第三者が点数を付けるものではなく、アートセラピスト自身が「第三者的な視点をもって自己評価するもの」です。評価する項目は、上に挙げた7カテゴリー23項目の構成要件についてです。もちろん、これはひとつの提案であり、その点数によって国家資格に準じる「お墨付き」を与えるものではありません。しかし、これまでにはなかったものとして有効に活用されることが期待されます。
 重要なのはその用い方です。すべての項目について100%が理想であるというわけではありません。活動目的によってパーセンテージが低くてもよい項目もあるでしょう。各項目の内容が個々の活動にとってどれだけ必要かを判断しながらの自己評価となります。重要なのは、「私はこのような立ち位置で、こうした目的をもってアートセラピーを提供している」ということを自己認識すること、そしてそれを明示できることなのです。
 将来的には第三者による認証が求められますが、そのための組織やシステムづくりにはかなりの時間を要します。EATが多分野にわたり、多様なあり方をしていることを考えると、EATの評価基準を一律には定めることは困難であり、統一した認証システムを構築することは容易ではありません。そこでまずは、この自己評価方法を提案し、この方法の可能性を追求したいと思います。

実践に役立つために

 ATASでは、精神科学、心理学の専門家および市井のアートセラピストらと共同しながら、エンパワメント型アートセラピー(EAT)の「構成要件と自己評価方法」を実際の社会で役立つものにするため、読みやすく、携帯もできる「エンパワメントのためのアートセラピーハンドブック(仮称)」を作成し、配信していく計画です。
 これまで見てきた分類や名称を含め、構成要件の内容や方法、ハンドブック形式についての、活動家に対するヒアリングでは、「独善的になりがちな自分たちの活動を客観視する有用な手段である」「同僚と繰り返し相互評価に使いたい」「活動内容の見直しの参考になった」などの意見をいただいています。一方で、「エンパワメントが強調され、枠にはめられる感じがする」「PATとEATはすっきり切り離せないと思う」などの意見もありました。後者の意見については、定義や分類の意図についての理解を促進する工夫が求められます。